現代のECサイトには、オンラインとオフラインのあらゆる顧客接点を横断する、没入型の購買体験が求められています。顧客情報、店舗情報、商品情報といったデータを統合し、そのデータをもとにスマートフォンアプリ、ウェブサイト、SNS、店舗などあらゆる販売チャネルで一貫した購買体験を提供する販売戦略が、ECでの成功の鍵となるでしょう。
本記事では、2026年に注目すべきEC販売戦略のトレンドを紹介します。

消費者行動の変化と、それに伴う従来型ECサイトの課題
近年の消費者行動の変化に伴い、従来のECシステムの限界が顕在化しています。
現代の消費者は、店頭で試してからECで買う、ECで注文したものを店頭受け取りするといった「ハイブリッド消費」が主流となっています。一方で、博報堂の調査によると、消費者は従来のECサイトに対して、次のような不満を抱えていることが明らかになっています。
- 欠品商品が、いつどこで買えるようになるのかわからない
- ECと実店舗でのポイント連携がされていない
- ECやアプリと実店舗で価格が異なる
- 買いたい店舗での商品在庫がわからない
こうした問題は、ECと実店舗で情報やデータ、サービスが分断されていることに起因しています。従来のECプラットフォームは、販売チャネルごとに別々で管理されており、顧客データや在庫情報が統一されていません。その結果、次のような課題を抱えています。
- データを活用した販売が難しい:従来のECプラットフォームでは、システムごとに顧客データや購買履歴が散在しており、データをもとにしたアプローチが難しく、コンバージョンにつなげにくい。
- オムニチャネル販売がしづらい:従来のECプラットフォームでは、実店舗や自社サイト、外部モールなどが個別に管理されているケースが多く、在庫や販売価格が統一しづらい。こうした情報の分断は、販売機会の損失だけでなく、顧客満足度の低下にもつながっている。
こうした課題を解決し、シームレスな顧客体験を提供する手段として注目されているのが、ユニファイドコマースです。ユニファイドコマースとは、実店舗やECなどあらゆる販売チャネルを統合し、顧客ひとり一人に最適な購買体験を提供する仕組みです。ポイントや価格、在庫をチャネル間で統一できるだけでなく、店舗での商品提案にECの購買データを活用したり、AR機能を使ったバーチャル試着を提供したりできるようになります。
今後ECで成長するためには、Shopify(ショッピファイ)をはじめとした、あらゆるタッチポイントでデータを統合できるECプラットフォームの利用が鍵となるでしょう。

EC販売戦略のトレンド3選
ユニファイドコマースを活用したEC販売戦略のトレンドを3つ紹介します。
1. ハイパー・パーソナライゼーション
EC販売戦略として注目を集めているのが、ハイパー・パーソナライゼーションです。ハイパー・パーソナライゼーションとは、AIや機械学習を使って、顧客データやリアルタイムの行動データを広告やコンテンツに反映させ、顧客ごとに体験を最適化するマーケティング手法です。この手法では、蓄積されたデータを使いAIや機械学習に分析させるため、顧客の趣味嗜好や行動傾向がより正確に把握でき、コンバージョンにつながる販売戦略を実施できます。
ECでは、次のような機能を使ってハイパー・パーソナライゼーションが実施されています。
AIレコメンド
AIレコメンドとは、顧客データや、購入履歴、閲覧履歴に加えて、位置情報や天気などのリアルタイムデータをもとに商品やキャンペーンを案内するシステムです。たとえば、以下のような活用方法が考えられます。
- 閲覧商品や購入商品をもとに類似商品をおすすめする
- 位置情報や天候情報をもとに、季節や顧客の好みに合う商品をレコメンドする
- 位置情報をもとに、周辺店舗のセールを案内する
顧客情報や購買行動をもとにしたレコメンド機能に加えて、行動データやリアルタイムデータも活用することで、パーソナライゼーションの精度が上がり、コンバージョン率やLTVの向上につなげやすくなります。
AI搭載検索エンジン
ECサイトではAI技術を搭載した高度な検索エンジンも注目されています。消費者の多くは、商品を探すときに検索窓を活用する傾向があります。実際に、株式会社シナブルの調査によると、消費者の約74%が検索窓からキーワード検索で商品を探していることがわかっています。また、同調査では、検索しづらいことが要因で購入を諦めた消費者が60%以上にのぼることも判明しています。こうした背景から、AI搭載検索エンジンを導入し、ユーザー体験の向上を図るEC事業者が増えています。
検索性やパーソナライズ性は顧客満足度につながり、購買率にも直結する重要な要素です。ユーザーの意図を汲み取り、最適な商品を即座に提案できるAI搭載検索エンジンは、EC事業の成長に欠かせない要素といえます。
動的コンテンツ
AIを活用して、商品説明やバナーなどのコンテンツを顧客に応じて最適化する手法を取り入れている企業が増えています。活用例は以下のとおりです。
- 初めて訪問したユーザーには初回限定クーポンを、会員にはメンバー限定商品をバナーで案内する
- 新規顧客には人気商品ランキングを、リピーターには新着商品を表示する
- スキンケア商品の商品ページでは、忙しい人向け、美容志向向け、コスパ重視向けに訴求ポイントを変えて表示する
動的コンテンツは、顧客データ、行動履歴、リアルタイムデータをもとにコンテンツを出し分けできるため、顧客体験の改善が図れます。売り上げ向上につながる施策として、今注目を集めています。
2. 没入型購買体験
没入型購買体験も、現在のECで活用されている販売戦略のひとつです。
近年、Z世代を中心にスマートフォンでのショッピングが主流になってきている一方で、ECでは「実際に手に取って実物を確認できない」という課題が顕在化しています。実際に、FORCE-Rの調査では、ネットショッピングで失敗した経験があると回答した消費者は9割にのぼり、ショッピング・アパレル分野では、約7割の人がサイズ感の違いや質・色がイメージと違ったことを失敗の理由に挙げています。これは、実物を直接確認できないことに起因する課題といえます。
この課題を解決する手段として注目されているのが、没入型購買体験です。ECでは、没入型購買体験を提供するために、次のような施策が取り入れられています。
- バーチャル試着や3Dシミュレーション:ARやVRを使い、アパレル商品やジュエリーなどの試着ができたり、家具やインテリアを部屋に配置できたりする機能です。実際に手に取ったときのイメージが伝わるため、顧客が納得した状態での購買につながります。
- バーチャルストア:VRや3D技術を使ったオンライン上の仮想店舗です。商品のサイズ感やデザイン、色味など実際の特徴が伝わりやすい点がメリットです。また、ブランドの世界観を肌で感じてもらえるため、ブランドロイヤルティの向上も期待できます。
- OMO式の体験店舗:ECと実店舗を融合した体験型店舗のことです。ECサイトやアプリで販売している商品を実際に体験できるポップアップストアを開催するなど、オンラインとオフラインを横断したシームレスな体験を提供することで、顧客体験の向上につながります。
たとえば、ペット用品企業のGunner Kennelsは、Shopifyの3DモデルおよびAR機能の活用で、カート内商品のコンバージョン率を3%、注文全体のコンバージョン率を40%向上させました(英語)。
このように、消費者のイメージと実物のギャップを埋める施策を講じることで、返品率の低下や顧客満足度の改善につながり、コンバージョン率の向上が図れます。
3.販売チャネルや収益モデルの多様化
現在、EC市場では、販売チャネルや収益モデルを横断した販売戦略が主流になっています。
従来は、自社ECサイトを中心に販売するモデルが主流でした。しかし近年、スマートフォンやSNSが普及したことで、消費者はいつでも、どこからでも情報を集め購買につなげられます。時間や場所を問わずに商品購入できる需要が高まり、それに伴い、ECでは販売チャネルの多様化が求められています。
販売チャネル拡大に向けた施策には、次のようなものがあります。
- ソーシャルコマース:TikTok Shop、Instagramショッピング、FacebookショップなどのSNSのショップ機能を活用して、商品の発見から購買までをシームレスに完結させる施策です。途中で離脱することなくSNS上で商品を購入できるため、利便性の高い購買体験を提供できます。
- ライブコマース:ライブ配信を通した、双方向の購買体験です。消費者は不安をリアルタイムに解消できるうえに、視聴しながら商品を購入できます。購買意欲を高めるのに効果的な施策です。
- モバイルアプリの活用:ECサイトをアプリ化する施策です。プッシュ通知を使ってクーポン配布や販促を行ったり、位置情報を使って在庫確認ができるようにしたりと、オンライン・オフライン双方の購買体験の向上に効果的です。
また、収益モデルに関しても、単発的な商品販売に依存するモデルから、顧客ロイヤルティの向上や継続的な顧客エンゲージメントの創出につながるビジネスモデルへと移行しています。
代表的なモデルには次のようなものがあります。利益の最大化には、複数を組み合わせた戦略が効果的です。
- サブスクリプション:スキンケア商品や日用品などの定期販売など、一定の頻度で販売する収益モデルは、売り上げが安定しやすいのが特徴です。また、在庫が管理しやすく、過剰在庫や在庫切れを防ぎやすいメリットもあります。
- D2C:仲介業者を通さず直接顧客に販売できるため、収益性が高いビジネスモデルです。また、顧客の意見や行動データを集めやすく、商品改善やマーケティング施策に反映させやすい点もメリットです。
- リセール:一度販売したものを再販するリセールモデルは、中古市場も収益化できる点が特徴です。特にアパレルブランドでは、サステナビリティへの関心が高まっていることや、リセール前提での購買が増えていることから、リセールモデルの導入が進んでいます。再販を通じて顧客との接点を長期的に維持しやすいため、LTVの向上も図れます。
- メンバーシップ:会員限定コンテンツや先行販売、メンバー特別価格などを提供し、継続課金やブランドロイヤルティ育成につなげる施策です。中長期的な顧客関係を築きやすいメリットがあります。
このように、近年のEC市場では、単一の販売チャネルや収益モデルだけに頼るのではなく、さまざまな販売手法や収益モデルを横断しながら売り上げを拡大することが成長の鍵となります。
EC販売戦略のトレンドを取り入れた成功事例
トーキョーバイク
自転車専門店であるトーキョーバイクは、ユニファイドコマースを取り入れた好例です。同社が取り扱う自転車は価格帯が高く、試乗後、一旦帰宅し検討するという流れが一般的です。そのため、試乗に訪れた消費者に再検討を効果的に促せるよう、Shopify POSを導入しました。実店舗とECサイトを連携することで、店舗で試乗した商品をECサイトのショッピングカートに自動で追加し、顧客にメールを配信する仕組みを整えました。その結果、販売機会の損失を大幅に減らすことに成功しています。
Zoff
没入型体験を導入した成功事例として挙げられるのが、メガネブランドのZoff(ゾフ)です。Zoffでは、最先端のAR技術を活用したバーチャル試着サービスを提供しています。試着はライブモード、ビデオモード、写真モードから選択でき、試着商品もメガネとサングラスが用意されています。レンズの色や濃度も自由に変更でき、店舗に行かずに気になる商品のフィット感を確認できる点が特徴です。購入前の不安を解消しつつ、顧客の利便性の向上にも貢献している、優れた事例といえるでしょう。
フェリシモ
アパレルブランドのフェリシモでは、AI搭載型検索エンジンを導入し、離脱防止につなげています。同社では、検索キーワードが完全一致しない場合、検索結果が0件になってしまい、顧客が離脱してしまうという課題を抱えていました。そこでAIを活用した検索エンジンを導入し、顧客が入力したキーワードから意図を汲み取り、最適な商品提案につなげられる仕組みを構築しました。検索性を向上したことで、顧客体験の改善につなげた好例です。
まとめ
EC販売は転換期を迎えています。さまざまなチャネルを横断しながら効率よく購買する消費行動が主流となった今、それぞれの販売チャネルで一貫した顧客体験を実現できるかが、EC事業の成長の鍵となるでしょう。
そこで重要になるのが、ユニファイドコマースです。ECサイト、モバイルアプリ、店舗、SNSなどあらゆる顧客接点で、統一された顧客データや行動データを活用することで、顧客ひとり一人に合わせて購買体験を最適化できます。顧客満足度や利便性の向上につながり、コンバージョンやLTVの最大化も期待できます。
今後のEC戦略では、顧客接点全体を横断してシームレスな購買体験を提供できるかが、企業の競争力を左右する重要なポイントになるでしょう。
EC販売戦略のトレンドに関するよくある質問
EC市場における消費行動の変化は?
EC市場では、オンラインとオフラインを行き来する「ハイブリッド消費」が主流になりつつあります。博報堂の調査によると、店頭で商品を試してからECモールで購入したり、ECサイトで購入した商品を店頭受け取りにしたりと、実店舗とECを区別せずに使い分ける購買行動をとる消費者は、全世代の約半数にのぼることが明らかになっています。
EC販売戦略のトレンドは?
- ハイパー・パーソナライゼーション:AIレコメンドやAI搭載検索エンジン、動的コンテンツを活用して、顧客情報だけでなく行動データやリアルタイムデータをもとに購買体験をパーソナライズする
- 没入型購買体験:バーチャル試着やバーチャルストア、OMO式体験店舗を通じて、オフラインとオンラインを融合した体験を提供する
- 販売チャネル・収益モデルの多様化:SNSやアプリなど複数チャネルを横断しながら、サブスクリプションやD2Cなど多様な収益モデルを組み合わせて、収益を最大化する
EC事業でZ世代やミレニアル世代を獲得するには?
EC事業でZ世代やミレニアル世代を獲得するには、シームレスな購買体験の提供が欠かせません。Z世代やミレニアル世代では、SNSで情報を集め、実店舗で商品の実物を確認し、ECサイトで購入するといった消費活動が普及しています。そのため、あらゆるタッチポイントで顧客体験を統一し、どのチャネルでもスムーズに購入できる利便性の高い購買体験が重要になります。




