他の企業やブランドと識別するための商標は、ビジネスを守り成長させていくために重要な知的財産になります。特に、ビジネスの立ち上げや新製品のリリースにあたっては、公的な保護を受けるためにも先んじて商標登録を行っておく必要があります。
ですが中小企業の中には、こうした意識や体制が大企業に比べて十分に整っておらず、後回しになっているケースも少なくありません。そこで本記事では、会社名やロゴといった商標を登録するメリットと、商標登録の具体的な方法について解説します。

商標登録のメリット
商標を独占使用する権利を確保できる
商標を登録すると、指定した商品・サービスの範囲で、その名称やロゴなどを独占的に使用する権利が法的に認められます。これにより、同一または類似の商標を他社が使用することを防止できます。
中小企業では、長年使ってきた社名・ビジネス名や商品名が未登録のままというケースも少なくありません。その場合、自社が先に使っていたとしても、他社に先に商標登録されることで使用を制限されるリスクがあります。商標登録は、こうした事態を未然に防ぐための有効な手段です。
ブランドの信頼性が向上する
商標は、商品やサービスを他社と区別するための重要な要素であり、ブランドそのものを象徴します。商標登録によって、自社のブランドを公式に保護していることが明確になり、顧客からの信頼感につながります。
SNSやECサイトを通じて情報を発信しやすい現在では、模倣や混同が起こりやすくなっています。商標登録は、継続的なブランディングとマーケティング活動を支える基盤となります。
企業の資産として価値を持つ
商標権は、法律上の財産権として扱われる無形資産です。単なる名称やロゴではなく、企業が保有する価値の一部と位置づけられます。
中小企業においても、事業承継やM&Aの場面では、商標が企業価値を構成する要素の一つとして評価されることがあります。将来を見据え、自社ブランドを権利として明確にしておくことは、経営の安定性を高めるうえでも意味があります。

商標登録の3つのステップ
1. 商標が利用可能か確認する
まず行うべきなのは、検討している商標や類似商標がすでに他社に使用・登録されていないかの確認です。この段階での検討不足は、出願後の登録拒絶や他社への権利侵害といったリスクにつながります。
はじめに、商標として使用したい名称やロゴを決め、その商標をどの商品・サービスで使用するのか区分(指定商品・指定役務)を明確にします。商標権は、基本的にこの指定内容の範囲内でのみ認められるため、事業内容に即した整理が不可欠です。
次に、先行商標の調査を行います。日本では、特許庁が提供する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」を使って、同一または類似の商標がすでに登録・出願されていないかを確認することができます。たとえば完全に同じでなくても、指定した区分が同じで見た目や読み方、意味が似ている場合は「混同してしまう恐れがある」と判断される可能性があり、注意が必要です。
2. 商標登録の出願手続き
商標が利用できそうだと判断できたら、登録出願の手続きに進みます。商標登録は自社で行うことも可能ですが、専門的な判断が求められる場面も多く、弁理士に相談するケースも一般的です。
出願にあたっては、出願書類を作成し、商標の内容や指定商品・役務を正確に記載します。その後、特許庁へ出願を行い、所定の出願料(3,400円+区分数×8,600円)を納付します。審査を経て登録が認められた場合は、登録料(10年分:区分数×32,900円)を納付することで商標権が発生します。
審査の過程では、他の商標との類似などを理由に「拒絶理由通知」が出されることもあります。その場合でも、意見書や補正書を提出することで対応できるケースがあります。必ずしも一度の指摘で登録が不可能になるわけではありません。
3. 商標を外国でも有効にする
日本で商標登録を行っても、その効力は原則として日本国内に限られます。海外で同じブランドを使用する場合は、各国で商標を取得する必要があります。
将来的に海外展開の可能性がある中小企業にとっては、この点を早めに意識しておくことが重要です。海外での商標取得には、各国に直接出願する方法のほか、「マドリッド協定議定書」に基づく国際出願(いわゆるマドプロ)を利用する方法があります。
国際出願を利用すると、日本での出願や登録を基礎として、複数の国にまとめて商標保護を求めることができます。すぐに海外展開を行わない場合でも、将来の選択肢として知っておくことで、ブランド戦略を立てやすくなります。

商標の保護と維持を行うためのポイント
商標を適正に使用する
商標権を維持するためには、登録した商標を適正な形で継続的に使用することが重要です。登録内容と異なる表記やロゴを常用していると、実際には登録商標を使用していないと判断されるおそれがあります。
また、登録した商品・サービスの範囲を超えた使い方には注意が必要です。たとえば、登録していない区分で商品名として使用している場合、商標権による保護が及ばないケースがあります。日々の販促物やECサイトの表記が、登録内容と一致しているかを定期的に確認することが大切です。
商標登録の更新手続きを行う
日本の商標権の有効期間は、登録日から10年間です。権利を継続して維持するためには、期間満了前に更新登録の申請を行い、所定の更新登録料を納付する必要があります。更新は何度でも可能で、1回の手続きごとに10年間延長されます。
また、事業内容の変化により、商標の使用範囲が広がったり、逆に使わなくなった商品・サービスが出てくることもあります。その場合、現在の登録内容が実態に合っているかを見直し、必要に応じて追加出願や整理を検討することが重要です。
権利侵害に対応する
商標を守るうえでは、第三者による無断使用や類似商標にも注意を払う必要があります。放置してしまうと、商標の独占性が弱まり、将来的に権利行使が難しくなる可能性があります。
また日本では、登録商標が3年以上使用されていない場合、第三者から不使用取消審判を請求され、権利が取り消されることがあります。自社では使っているつもりでも、客観的に使用実態を示せないと不利になるケースもあります。
他社による侵害や類似使用が疑われる場合には、早い段階で弁理士などの専門家に相談することが有効です。警告書の送付や交渉など、状況に応じた対応を取ることで、商標の価値を守りやすくなります。
まとめ
商標登録は、中小企業にとっても自社ブランドを守り、ビジネスを成功させるために重要な取り組みです。商標を登録することで、名称やロゴを独占的に使用できる権利を確保でき、他社による模倣や意図しないトラブルを防ぎやすくなります。また、商標はブランド価値を支えるだけでなく、無形資産として企業価値にも影響します。
商標登録にあたっては、出願前の調査や、将来を見越した海外での対応も必要となります。さらに、商標権や価値を維持していくためには、登録後も適正な使用や更新手続き、権利侵害への対応を継続することが欠かせません。
商標登録は一度きりの手続きではなく、ブランドを育て、守り続けるための基盤です。自社の事業内容や将来計画に合わせて、計画的に取り組むことが重要といえるでしょう。
中小企業の商標登録に関するよくある質問
商標とは?
商標とは、自社の取り扱う商品やサービスを他社のものと区別するために使用するマーク(標識)のことで、文字、図形、記号、立体的形状、色彩やこれらの組み合わせにより構成されます。
登録商標とは?
登録商標とは、商標が特許庁に正式に登録され、法的な保護を受けていることを示すものです。登録商標の「®」マークは海外の慣用で、日本では法律上の表示ではありません。
著作権と商標の違いは?
著作権と商標は、保護される内容が異なります。商標は「商品・サービスに使用するマーク」であるのに対し、著作権は「思想又は感情を創作的に表現したもの」です。また権利期間(著作権は著作者の死後70年)、所管(著作権は文化庁)も異なります。
商標保護の有効期間は?
日本では、商標権の有効期間は10年間です。10年経過後も保護を継続するには、更新手続きを行う必要があります。
標語やフレーズを商標登録できる?
標語は、一般的な意味を表したものにすぎず、ブランドを識別するものでないとして登録が否認されることも多いですが、次の例のように商標登録されているものもあります。
- 「お、ねだん以上。」(株式会社ニトリホールディングス)
- 「自然を、おいしく、楽しく。」(カゴメ株式会社)
文:Norio Aoki





