近年、環境問題の深刻化や国際的な政治動向などの要因が重なり、企業のCSR(企業の社会的責任)が厳しく問われています。消費者、投資家、規制当局は、企業が「何を」「どのように」生産しているかをより詳しく知ることを求めており、その要求に応える手段がサプライチェーンの透明化です。
この記事では、サプライチェーンの透明性の定義、企業が透明性を高めることで得られるメリット、実現するための具体的なステップなどを解説します。サプライチェーンの透明化に取り組みたい企業は参考にしてください。

サプライチェーンの透明性とは
サプライチェーンの透明性とは、製品の原材料調達から販売までのプロセスを企業が把握し、その情報を顧客や投資家などのステークホルダー(利害関係者)に開示している状態を指します。
情報を開示するには、製品が「どこで」「どのように」「どのような社会的・環境的条件のもとで」生産されたかを企業自身が追跡・把握できていなければなりません。この追跡できる状態はトレーサビリティ(追跡可能性)と呼ばれ、サプライチェーンの透明性を実現する土台となります。
サプライチェーンの透明性と可視性の違い
サプライチェーンの透明性と可視性は、目的や取り扱う情報が異なります。
サプライチェーンの可視性とは、サプライチェーンにおけるオペレーションを企業がどこまで把握できているかを指し、生産性向上を主目的として、維持・向上されます。主に物流のリアルタイム追跡や在庫状況などの情報を取り扱います。
サプライチェーンの透明性とは、サプライチェーンを外部にどこまで公開できているかを指し、CSRを果たすことを主目的として、維持・向上されます。主に、現場の労働環境やCO2排出量などサステナブルな取り組みに関する情報を取り扱います。

サプライチェーンの透明性が重要な理由
サプライチェーンの透明性は、消費者意識や法規制の変化による顧客離れや制裁などのリスクを避け、事業を継続して成長させるために重要です。CSRへの関心が高まる中で、企業はサプライチェーンの透明化を通じて、自社の取り組みを外部へ示せます。
たとえば、ジェトロの「サプライチェーンと人権」に関する主要国の政策と執行状況レポートによると、ファーストリテイリングが展開するユニクロの製品は、人権侵害が疑われる環境で生産されたとして、2021年に米国で輸入停止措置(WRO)を受けました。ファーストリテイリングは強制労働の存在を否定し再審査を申請しましたが、米税関は証明が不十分として申請を棄却しています。さらに、米国では2022年にウイグル強制労働防止法(UFLPA)が施行され、新疆ウイグル自治区で生産された製品は強制労働によるものと推定され、原則輸入禁止となりました。
こうした背景から、ファーストリテイリングは生産パートナーリストの公開や全縫製工場・主要素材工場を対象とした労働環境モニタリングを継続的に実施し、サプライチェーンの透明性向上に取り組んでいます。

サプライチェーンの透明性がもたらす4つのメリット
1. ブランドロイヤルティの向上
サプライチェーンの透明性を高めて、自社の社会的な務めを伝えることは、ブランドへの信頼獲得や競合との差別化につながります。結果として、ブランドロイヤルティが向上し、リピート購入を促し、CLV(顧客生涯価値)アップが期待できます。
たとえば、ニッセイ基礎研究所の調査では、透明性のある情報開示が顧客との信頼関係構築に直結することが示されています。同調査によると、製造業や金融のブランドについて、企業の社会貢献活動を消費者に開示した前後で、「信頼」や「誠実」といったブランドイメージが複数の業種で上昇することが確認されています。
2. B2B取引での競争力向上
透明性の高いサプライチェーンを持つことは、B2B取引の機会獲得にもつながります。一般社団法人中小企業個人情報セキュリティー推進協会が2024年に実施した大企業のESG経営への取り組みに関する実態調査によると、大企業の経営者・役員の53.9%が「ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが不十分な企業との取引はためらう」と回答しています。また約6割の大企業が、取引先のESG基準への対応を定期的に確認・評価していることも明らかになっています。
サプライチェーンの透明性を示せる企業は、厳格な調達基準を持つ大企業の要件を満たしやすく、新規取引のハードルを下げられます。特に大企業のサプライヤーや海外バイヤーとの取引を目指す中小企業にとって、透明性への取り組みは価格競争から抜け出す差別化要因となります。
3. サプライヤーとの関係強化
サプライチェーンの透明性を高めることで、企業とサプライヤーの関係がより対等なパートナーシップへと発展します。サプライヤーの取り組みを可視化して環境への配慮や品質なども評価対象とし、公正な労働環境や対価を提供することで、サプライヤーは企業との信頼関係を重視してより責任ある製造・生産を行うようになります。企業側も、基準を満たすサプライヤーと協力することで、理想とするサプライチェーンを構築できます。こうした双方向のやりとりが、サプライチェーンを強固にします。
4. 投資家や人材からの支持獲得
サプライチェーンの透明性を高め、自社の社会的責任への取り組みを示すことは、投資家や求職者からの支持獲得につながります。ソダリ・ジャパンの海外投資家から見た日本企業のESG事情2024でも、ESGへの取り組みや持続可能なサプライチェーンの構築は、投資家から見た企業への関心や評価指標にプラスの影響を与えていると報告されています。
学情の2026年卒就職意識調査(2024年10月)では、企業のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを仕事選びで意識する学生は52.8%に達しており、企業がSDGsに取り組んでいることを知ると「志望度が上がる」と回答した学生は約7割にのぼります。

サプライチェーンの透明化が難しい3つの理由
1. 多層構造による複雑さとデータの欠落
サプライチェーンの透明化を達成するには、一次サプライヤーだけではなく、二次・三次サプライヤーまで把握する必要があります。末端にいくほど事業者の規模は小さくなり、データの収集・共有の体制が整っていないケースも少なくありません。また、グローバル化が進んだ現代では、原材料の産地まで追跡することは、容易ではありません。
たとえば、Tシャツ縫製工場の労働者への公正な待遇を証明できても、世界各地の農場などから集められた綿花の生産過程まで遡って同様の証明をすることは困難です。
2. 開示基準の設定とコスト負担
何をどこまで開示するか、どういった情報が必要かを判断することは容易ではありません。法規制が存在する場合はその要件が基準となりますが、自発的に取り組む場合は何を基準にするかを自社で定める必要があり、明確な根拠を見つけることが求められます。さらに、情報開示を進めるほど調達基準が厳しくなり、それを満たせるサプライヤーの確保が難しくなる側面もあります。
加えて、透明性の確保には第三者監査、データ管理システムの導入、専門人材の確保など、相応のコストが伴います。製造・販売を担う企業についても、サプライヤーについても、中小企業である場合は事業規模に対してコスト負担の割合が大きくなります。
3. グリーンウォッシングのリスク
グリーンウォッシングとは、実態を伴わない環境配慮の訴求を指します。サプライチェーンの透明性を高めようとするほど、開示内容の正確さや質も問われるようになります。もし証拠や裏付けが不十分なまま環境配慮を主張すると、消費者や規制当局からグリーンウォッシングと見なされてしまいます。
実際、グリーンウォッシングを規制する動きも出てきています。ジェトロの報告によると、EU理事会は2024年2月にグリーンウォッシング禁止指令を正式に採択しました。同指令では、「環境に優しい」「エコロジカル」「グリーン」といった表示について、独立した第三者機関による検証を伴う明確かつ客観的な根拠がない場合、マーケティングへの使用を原則禁止としています。

サプライチェーンの透明化に役立つ最新テクノロジー
ブロックチェーン
ブロックチェーンとは、取引に関するデータを複数のコンピューターで分散管理する技術です。この仕組みを用いることで、データの改ざんが困難になるとされています。ブロックチェーンを活用することで、原材料の産地から最終製品に至るまでの取引履歴が、不正に書き換えられるリスクを抑えられます。
たとえば、NTTデータは「サステナブルで透明性の高いサプライチェーンの実現」レポートで、ブロックチェーン技術を用いたトレーサビリティソリューション「IoTrace(アイオートレース)」を導入したエクアドルの水産加工会社の事例を紹介しています。水産加工会社は、信頼できる漁業者から得た情報を同システムへ登録し、小売事業者はその情報を活用できます。
ただし、ブロックチェーン上に登録された情報は改ざんされづらいものの、そもそもの情報が誤っている場合は効果を発揮しません。そのため、サプライヤーとの信頼関係や第三者による監査との組み合わせなどが必要になります。
デジタル製品パスポート
デジタル製品パスポート(DPP)とは、製品の出所や材料構成などの情報を、二次元コードなどを用いたデジタルIDに紐付け、消費者や規制当局がスキャンして確認できる仕組みです。EUでは「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」のもとで法制化されていて、様々な品目への段階的導入が進んでいます。
日本国内でも、デジタル製品パスポート導入に前向きな企業が生まれています。たとえば、医療ウェアブランド「sukui」を展開するワーキングハセガワは、2025年にデジタル製品パスポートを導入し、原材料の調達や環境負荷などに関する情報を開示しています。
生成AI
生成AI(ジェネレーティブAI)とは、大量のデータを学習し、テキストや予測結果などを生成できる技術です。サプライチェーンの透明化には、膨大な情報を収集・処理する作業が伴いますが、生成AIはそのプロセスを効率化するツールとして活用されています。
企業向けに技術支援を提供しているクラスメソッド株式会社は、トミーヒルフィガーやカルバンクラインの親会社であるPVHの事例を紹介しています。同社は各サプライヤーや認証団体が発行した文書を、AIを活用してサプライチェーン情報管理クラウドと連携させることで、透明性の向上に取り組んでいます。

サプライチェーンの透明化を実現する方法
1. サプライチェーンの可視化とリスクの特定
はじめに、自社のサプライチェーン全体を可視化して、原材料の調達、製造、顧客への配送までの流れを正確に把握しましょう。情報やデータの欠落があれば、サプライヤーへの問い合わせや現場への訪問を通じて補完します。
次に、過去に発生した事例、サプライヤーが抱えている問題、今後施行される新規制などを整理してリスクを特定します。
2. 目標と行動規範の作成
リスク分析の結果をもとに、透明性向上に向けた目標を設定します。目標は測定可能な形で定めることが理想です。たとえば、環境への配慮を重視するなら、CO2排出量をサプライチェーン全体で可視化するといった目標が考えられます。
あわせて、目標を達成するために、取引するすべてのサプライヤーにも適用される行動規範を作成します。目標に関するデータの記録方法、情報の共有方法、具体的な取り組み内容などを定めて、契約にも盛り込みましょう。その際、一方的に要求せずに、サプライヤーと協議して進めることで、反発を抑えながら協力を得やすくなります。
3. 進捗の確認
取り組みの進捗やマイルストーンの達成などを定期的に確認することで、目標達成に向けたモチベーションを高め、取り組みが形骸化するのを防げます。また、サプライヤーの状況も日々変化するため、必要に応じて行動規範を調整します。
あわせて、進捗の検証方法も定める必要があります。たとえば、信頼できるサプライヤーの報告書や、第三者機関による監査などが検討できます。
4. 結果の開示
取り組みの結果やトレーサビリティを、公式サイトやメディアを通じて調査レポートやプレスリリースとして開示します。分かりやすい言葉を用いることで、多様なステークホルダーに内容を理解してもらいやすくなります。
規制上の義務がない場合、何をどの程度開示するかは企業が主体的に判断できます。定めた目標に沿った情報を、事実や根拠を提示しながらまとめましょう。
まとめ
サプライチェーンの複雑な実態は消費者の目には届きにくく、最終製品を販売するブランドがその管理責任を担うものと見られています。消費者意識の変化や規制の強化を踏まえると、サプライチェーンの透明化を求める動きは、今後ますます強まっていくと考えられます。
サプライチェーンの透明化に取り組む際は、共に働くサプライヤーや消費者、そして環境のためにより良いビジネスを実現するという姿勢が重要です。そうすることで、サプライヤーとの信頼関係が深まり、消費者からの共感を得やすくなります。結果として、長期的なブランド価値の向上と事業の持続的な成長につながります。
サプライチェーンの透明化に関するよくある質問
サプライチェーンの透明性とは?
サプライチェーンの透明性とは、製造や流通などの全工程を企業が把握し、顧客や投資家などへ開示している状態を指します。
サプライチェーンの透明性はなぜ重要?
サプライチェーンの透明性が重要なのは、消費者意識の変化や法規制の強化によるリスクを回避し、事業を継続的に成長させるために必要だからです。
サプライチェーンの透明化によるメリットは?
サプライチェーンの透明化による主なメリットは以下の通りです。
- ブランドロイヤルティの向上
- B2B取引での競争力向上
- サプライヤーとの関係強化
- 投資家や人材からの支持獲得
サプライチェーンの透明化が抱える課題は?
サプライチェーンの透明化が抱えている主な課題は以下の通りです。
- 多層構造による複雑さとデータの欠落
- 開示基準の設定とコスト負担
- グリーンウォッシングのリスク
サプライチェーンの透明化を実現する方法は?
サプライチェーンの透明化を実現するには、以下の取り組みが必要です。
- サプライチェーンの可視化とリスクの特定
- 目標と行動規範の作成
- 進捗の確認
- 結果の開示




