健康意識の高まりにより、普段の食生活や運動生活、メンタルヘルスケアを見直す人が増えています。経済産業省の報告によると、公的保険の適用外にあるヘルスケア産業の国内市場規模は、2050年までに約77兆円まで拡大すると予測されています。
健康維持を目的とするヘルスケアを含め、充実したライフスタイルをサポートするウェルネス業界に消費者が求めているのは、健康食品やサプリメントにとどまりません。近年では、睡眠スコアやストレス指標といったデータとテクノロジーに基づくパーソナルケア製品、予防医療やアクティブエイジングなどに対する需要が、市場拡大の要因となっています。
この記事では、ウェルネス業界の最新トレンドを紹介します。商品やサービスのラインナップの見直しだけでなく、マーケティング戦略の立案にも役立ててください。

ウェルネス業界が注目を集める理由
消費者のウェルネスに対する意識の高まり
Vポイントマーケティングが発表した健康意識調査によると、「健康でいるためにお金をかけてもよいと思うか」という質問に対して、20代と30代は7割近くが「そう思う」「ややそう思う」と答えています。40代以降の層に比べて高い数値となっており、若年層におけるウェルネスに対する意識の高まりがみられます。一方、「健康的な生活を目指す上での障壁」として若年層の多くが「お金がかかる」「時間がない」と答えている傾向もあり、前向きにとらえつつもコストや時間の確保が課題となっていることがわかります。
ウェルネス産業の市場規模拡大が見込める
マーケットリサーチセンターの調査資料によれば、日本のウェルネス市場規模は2025年に2,145億米ドル(約34兆3,200億円)に達し、2034年にかけて年平均成長率(CAGR)3.47%で2,917億米ドル(約46兆6,720億円)へと拡大を続けると予測されています。
また、マッキンゼーの調査(英語)では世界的な市場規模は2兆米ドル(約320兆円)に達しており、年間約10%の成長率を示しています。日本の市場も十分に存在感のある規模ですが、グローバルな視点ではそれと同程度の需要が毎年新たに生まれるほどの成長を遂げていることになります。
ウェルネス関連商品やサービスは多岐に渡る
ウェルネス関連商品やサービスは多岐に渡り、さまざまな業種や規模の事業者が参入しやすいという特徴を持ちます。医療や健康だけでなく、心身を充実させる運動や休息、衣食住などの分野もウェルネスに含まれます。企業が生産性向上や仕事環境改善のため、健康促進プログラムや運動支援、メンタルヘルス支援といった取り組みを導入するケースも珍しくありません。
そのため、既存のビジネスにウェルネスの要素を関連付けることが可能となり、ニーズの高い消費者にリーチしやすくなります。さらに、テクノロジーを駆使したウェルネス関連商品においては、スタートアップや中小企業も参入しやすく、ニッチ市場を見つけられるとシェア拡大にもつながるでしょう。

2026年のウェルネストレンド13選
- 予防医学と健康寿命への関心の高まり
- セルフケアはラグジュアリー体験が重要に
- 消費者の個性に合わせたパーソナライズ商品
- 自然派商品から医学的根拠に基づいた商品へのシフト
- メンタルヘルスとストレス管理
- 機能性栄養学に基づくパーソナライズされた食事
- デジタルウェルネス
- デジタルデトックス
- 在宅でできるフィットネスと疲労回復関連商品
- 睡眠の質の向上
- ヘルスツーリズム
- サウンドセラピー
- メタバースやゲーミフィケーションの活用
1. 予防医学と健康寿命への関心の高まり
病気を未然に防ぐ予防医学と、日常生活に支障がなく暮らせる健康寿命に対する関心が高まってきており、それに関連する商品やサービスが人気です。特に近年では、平均寿命と健康寿命のギャップに着目されることが増えました。厚生労働省によると、日本の男性の平均寿命が81.05歳であるのに対し健康寿命は72.57歳と報告されており、その差は8.49年です。女性は平均寿命が87.09歳、健康寿命は75.45歳で、11.63年もの差があることが明らかになっています。これらの格差が報じられるようになり、ただ長生きするのではなく、可能な限り健康寿命を延ばしたいと考える層も増えました。このことにより、従来の病気になってから治療を行うモデルではなく、予防医学の観点から普段の生活の見直しを行う消費者も増加し、ウェルネス関連商品やサービスへ高い関心が集まっています。
2. セルフケアはラグジュアリー体験が重要に
メンタルヘルスに関するセルフケアでは世界的な傾向として、日常的に行われるルーティン作業よりも、ラグジュアリー体験が好まれています。男女共同参画局が発表した健康意識に関する調査では、心理的なストレスが「要注意」とされる割合が約25%となり、特に20代では4割近くにのぼっているという結果が出ました。
日々のセルフケア継続によって気分改善や疲労回復といった効果が得られることも知られており、Kenvue(ケンビュー)によると世界の消費者の88%がセルフケア習慣が健康に良い影響を与えていると捉えています。一方で、毎日のセルフケア習慣は30分未満で行っている消費者は73%にのぼるなど、短い時間での対応を余儀なくされているという実情もあります。
セルフケアの重要性と時間の制約という背景から、ウェルネス商品はラグジュアリー体験が可能な商品への人気が高まっています。ボディウォッシュやハンドジェルといった日用品で、付け心地の良い質感や上品な香り、ミニマルデザインにこだわった商品など、日常のなかでちょっとした贅沢気分を味わえる商品の提供が増えています。
3. 消費者の個性に合わせたパーソナライズ商品
ウェルネス業界もパーソナライズドマーケティングが注目を集めています。生活スタイルや趣味趣向、ニーズに合わせて商品をカスタマイズできるフレグランスやスキンケア商品など、消費者の個性を反映させられるブランドが人気を博しています。「自分だけ」のアイテムはブランドロイヤルティを高め、良好な顧客関係を構築するためにも有効です。パーソナライズ商品を提供している事例は以下の通りです。
- Function of Beauty(ファンクション・オブ・ビューティー):個人向けのヘアケア商品を、髪の悩みや香り、ボトルの色などに合わせて顧客が自由に選べます。
- Curology(キュロロジー):アプリやサイトで簡単な質問に回答し肌の写真を送ると、顧客に合ったスキンケア成分を処方してもらえます。
- Nike by You(ナイキバイユー):シューズをカスタマイズして自分好みの配色を選べます。
このようなパーソナライズ商品を提供するためには、以下の方法を組み合わせて顧客のニーズや嗜好をよく知ることが重要です。
- ファーストパーティデータ収集:プロフィール登録やクイズ、診断を活用することで、顧客のニーズや悩み、特徴と商品処方やルーティン、おすすめ商品を紐づけられます。
- マーチャンダイジング戦略:季節や販促カレンダーに合わせた商品展開だけでなく、顧客ニーズやデータに合わせた商品レコメンドを表示することで、「自分のための商品である」と顧客に感じて貰えるようにします。
- コンテンツのパーソナライズ化:顧客データに基づき、商品ページのリードコピーや画像、使用方法を切り替えることで、顧客により合った訴求が可能となります。
近年では、DNA検査に基づいて体質に合わせたサプリメントや、体内時計に合わせたスマート照明といった商品も販売されています。顧客のニーズを掴み、適切にアプローチすることで良い顧客体験を提供することにもつながります。
4. 自然派商品から医学的根拠に基づいた商品へのシフト
自然派商品の人気は落ち着きを見せ、現在では医学的根拠に基づいた商品への人気へと関心が移り変わっています。2024年に行われた調査(英語)によると、専門家による支持を受けた商品や有効成分が含まれた商品が、ウェルネス商品の購入を決定づける重要な要因であることが指摘されています。特に、消費者の91%が商品の有効性を重要視していると回答しただけでなく、64%は臨床・科学研究データを求めていると報告されています。
成分に関する消費者の知識も向上しており、基礎化粧品においてはレチノール、ナイアシンアミド、ペプチド、ヒアルロン酸、サリチル酸といった有効成分の配合の有無が購入決定の基準になる場合もあります。成分の配合比率やpH値だけでなく、研究結果がわかりやすく記載されていることも重要です。これらの変化により、商品開発の現場においては以下の点に注意が必要となります。
- 効果に基づいた商品開発:有効成分として知られているレチノールやペプチドなどを、効果が期待できる濃度で配合します。皮膚科学に基づいた化粧品の試験基準などを明確に表示し、試験方法をウェブサイト上で公開するなど、情報の透明性を保つよう心がけます。
- 証明を優先する:臨床試験や消費者テスト、第三者機関による検証を優先的に行います。わかりにくい専門用語の羅列や曖昧な表現は避け、一般消費者にも伝わる表現を使用します。
- 専門家の意見を活かす:薬機法(旧薬事法)などの法律を守ったうえで、医療専門家やアドバイザーの意見を商品に取り入れます。その際、どの専門家に協力や監修を依頼したかといった詳細も明記しましょう。自社独自の認証や資格がある場合には、どのような意味や価値があるのかを具体的に記載することが重要です。
5. メンタルヘルスとストレス管理
メンタルヘルスとストレス管理に関連する商品やテクノロジーに注目が集まっています。IMARCグループによると、2025年の日本のメンタルヘルス市場規模は275億米ドル(約4兆1,120億円)であると発表されており、今後さらに成長することが予想されています。その背景には、メンタルヘルスへの意識の高まりや心理的ストレスが健康に与える影響への興味関心が高まったことが挙げられます。
こうした意識の高まりの背景には、企業のメンタルヘルスやストレス管理において自主的な活動だけでなく、労働者数50人以上の事業場でのストレスチェック制度が2015年から導入された影響も考えられます。2028年からは労働者数50人未満の事業場でも義務化されるなど、労働者が自らストレス状態を知り、心理的負担による労働災害認定を避けられる可能性が示唆されています。
このような傾向のなかで特に注目を集めている商品ジャンルが、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを活用したメンタルヘルスとストレス管理です。心拍数や心拍変動、血圧、筋緊張などの生理反応を計測することにより、ストレスや不安をリアルタイムでスコア化し、必要に応じてエクササイズを提案するといった方法で、ストレス軽減をサポートします。
6. 機能性栄養学に基づくパーソナライズされた食事
機能性栄養学という科学的根拠に基づく食事のパーソナライズ化を求める消費者が増えています。以前は有機食品が健康にいいという認識が広まっていましたが、近年では腸内環境のバランスや、代謝機能に関連する健康状態を表すメタボリックヘルスなどの見地に基づき、それぞれの体質に合った食品を求める傾向にあります。
例えば、血糖値の変動を知るために、本来は糖尿病患者が利用する医療機器のリブレを活用する人も増えています。スマートフォンアプリで血糖値の変動をグラフで確認でき、食生活や運動習慣の改善に役立てることも可能です。
7. デジタルウェルネス
モバイルアプリやウェアラブルデバイスなどのデジタル機器を活用して、精神・身体的健康を管理する方法をデジタルウェルネスと呼びます。デジタルウェルネスは主に以下の5つの要素で構成されます。
- ウェアラブルバイオセンサー:スマートウォッチやフィットネスバンド、スマートリングなどの、生体データを取得できるウェアラブルデバイスです。
- ヘルスデータプラットフォーム:デバイスやアプリで収集したデータを統合し管理するプラットフォームで、時系列で情報が蓄積されていきます。
- AI分析とパーソナライゼーション:蓄積されたデータをAIで分析し、アドバイスを生成します。
- デジタルセラピューティクス(DTx):治療用アプリやソフトで、データをもとに必要な対応のアドバイスや処方が可能です。現在は主に不眠症治療や禁煙支援、糖尿病管理に活用されています。
- 行動変容デザイン:ゲーミフィケーションやソーシャル機能などを活用して、利用者が継続的に健康行動が行えるよう促すことです。
8. デジタルデトックス
パソコンやスマホ、タブレットなどデジタル機器と長時間を過ごす現代、デジタルデトックスへの関心が高まっています。デジタル機器の使用時間を減らし、人とのコミュニケーションや自然とのつながりを大事にすることで、ストレス軽減を目指せるだけでなく、睡眠の質の改善やデジタルデバイスやネットへの依存を避ける効果も期待できます。
特に、オムニチャネルマーケティングを軸にしているDtoCブランドにとっては、デジタルデトックスへの関心は、顧客獲得のチャンスともなり得ます。実店舗でのイベントや購買体験により、商品の売上や顧客エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
9. 在宅でできるフィットネスと疲労回復関連商品
在宅でできるフィットネス機器や疲労回復関連商品を購入する消費者は増加傾向にあります。IMARCグループによると、ジム機器の日本市場規模は2025年に12億3,280万米ドル(約1,972億4,800万円)に達したと報告されています。ダンベルやリカバリーツールなどの物理的な商品だけでなく、アプリやオンライン授業を通したコーチングなども人気を集めています。商品とコーチングをセットで販売するプログラムも増えています。
10. 睡眠の質の向上
睡眠の重要性が広く知られるようになり、質の高い睡眠を確保することを重要視する人は少なくありません。スマートウォッチなどのデバイスを使うことで睡眠のリズムや総睡眠時間が分かるようになりました。さらに、睡眠データを使ってその質をスコア化したことにより、日々の睡眠スコア向上を目指してさまざまな取り組みを行う消費者も増えています。
睡眠の質の向上のために、より精度の高いスマートウォッチを導入する、アプリを購入するといった消費行動だけでなく、快適な睡眠を助ける枕やマットレスにも注目が集まっています。矢野研究所によると、ITやAIを活用して睡眠状態の改善をサポートするスリープテック商品の日本における市場規模は、2027年には160億円にのぼると予想されています。
11. ヘルスツーリズム
ヘルスツーリズムとは、健康増進や疾病予防、早期発見や早期治療を目的として行われるツーリズムのことです。ヘルスツーリズムは主に以下の2つに大別できます。
- 疾病予防:自らの健康維持・改善を目的とした「ヘルスプロモーション」と、メタボリックシンドロームやメンタルヘルスなど特定疾患の「予防活動」、旅先のスパやヨガ、フィットネス、ヘルシー食などを目的とした「ウェルネスツーリズム」の3つに分類されます。
- メディカルツーリズム(医療インバウンド):主に訪日外国人患者が対象となる医療サービスで、病気の早期発見と治療を目指す検診や健診、美容整形も含む治療、治療後のリハビリテーションの3つの柱から構成されます。
日本国内では経済産業省が、旅と健康に関するサービスの品質を評価する「ヘルスツーリズム認証制度」を設けています。今後さらに拡大が予想されるウェルネス業界において、ウェルネスツーリズムを活用する消費者が、自身に合った旅行消費を選べるような環境作りが行われています。
12. サウンドセラピー
サウンドセラピーは、音を活用したウェルネス関連の商品やサービスで、生産性向上や睡眠環境を整えることを目的として活用されます。従来のリラクゼーション音楽とは異なり、目的に合わせてパーソナライズされた音楽の活用が焦点となります。例えば、生産性向上に役立つとされ、左右で異なる周波数の音を聞かせる「バイノーラルビート」や、質の高い睡眠のための「ホワイトノイズ」など、個人の好みに合わせて音を選択する消費者が増えています。さらに、これらのサウンドセラピーにパーソナライズ戦略を取り入れることで、天気や時間帯、心拍数などのデータに合わせて音を自動生成する「Endel(英語)」のようなツールもあります。
13. メタバースやゲーミフィケーションの活用
メタバースやゲーミフィケーションを活用したフィットネスやメンタルヘルス管理は今後の成長が見込まれる市場の一つです。特にVRを使ったヘルスケア市場は、2030年まで年間約30%の成長が見込まれています。ストレス軽減のためのアクティビティからフィットネス活動の強化、瞑想などのためのツールとしてバーチャル環境が注目されており、臨床専門家や研究者が検証を続けています。
まとめ
ウェルネス業界は、消費者の健康意識の高まりや市場規模の拡大、関連商品やサービスの多さにより、多くの事業主が注目しています。
2026年のウェルネス業界において、予防医学や健康寿命への関心、メンタルヘルス、ストレス管理などがトレンドを形成しています。パーソナライゼーションも重要視される傾向にあり、デジタルウェルネスやメタバース活用などのテクノロジーを活用した商品やサービスも今後増えていく可能性があります。
ウェルネス業界は今後も成長が期待されているとともに、変動が激しいことも予想されています。今回の記事を参考に、商品やサービスの見直しや、マーケティング戦略の立案に役立ててください。




